2010年04月05日

世界中の映画祭で絶賛『息もできない』をレビュー

『 息もできない』(原題: Breathless)
製作年 2008(韓国)130分
カテゴリー:ドラマ
監督: ヤン・イクチュン
キャスト: ヤン・イクチュン, キム・コッピ, チョン・マンシク, ユン・スンフン, キム・ヒス, パク・チョンスン, イ・ファン
レビュー( ★★★★★)

基本的にオイラは、映画のラストシーンが終わってエンドロールの途中で退場する。

よく『エンドロールが終わる前に席を立つのはマナー違反だ』とか
『エンドロールの終わりまでみるのは映画に対する最低の礼儀だ』なんて、
通ぶったこと言う奴がいるが
(実はオイラも昔はこんなバカみたいなことを言って通ぶっていた(;´д`)トホホ…)、
エンドロールが終わって会場が明るくなった瞬間の現実に急に引き戻されるような白々とした雰囲気に耐えられないのだ。

映画の余韻に浸りたいという気持ちは解らなくもないし、
通路側に人が座っている場合は、マナーとして、通路側の人がいなくなるまで
席を立たないようにしていが、韓国映画やドイツ映画で、読めないハグル文字やドイツ語を
5分以上もボーっと見ているほど暇ではないし、
ましてや「金返せー」って言うような駄作のエンドロールを見る義理もないのに、
そんなダメ映画に限って通路側にいつまでも座っている奴がいて、
心の中で『こんなダメ映画ありがたがって、いつまでも見てんじゃねー(;´Д`)』と
イラついくことなどよくある。


しかし、1〜2年に一度くらいの割合で、席から立ち上がれなくなるほど
打ちのめされる映画がある。
それが今回”シネマライズ渋谷”で観た韓国映画『息もできない』もそういう映画だった。

オイラは、映画が終わっても、読めもしないエンドロールのハングル文字を見ながら、呆然としていた。
この映画は、本物の傑作である。

 しかも監督で主演の ヤン・イクチュンは、製作・監督・脚本・編集を
兼ねていて、これが監督デビュー作という十年に一度あるかないかの映画である。

クエンティン・タランチーノが『レザボアドッグス』で鮮烈な
デビューを飾ったのに似ている。
いやそれ以上の衝撃かもしれない。

ストーリーは、狂犬のように誰構わず殴り掛かるような粗暴な
借金取りを生業としている男サンフンが、
ある日、ヨニという女子高生と知り合う。

サンフンは少年時代に父親の暴力が原因で母と妹と死に分けれ、
刑期を終えて刑務所から出所した父親を激しく憎み、
父親のもとを訪ねては「なぜ、おまえはあんなことをした?」と
父親に激しい暴力を加える。

サンフンの問いに父親は答える術がない。
ただ、取り返しのつかない過去があるだけで、
父親は無抵抗でサンフンに殴られる。

一方、女子高生のヨニは、母が死に、
精神を病んでいる父の面倒をみながら、
彼女を毎日口汚くののしる弟と鬱屈とした生活を送っている。

ふたりはお互いの過去や不幸な身の上を語る訳でもないのに意気投合する。

サンフンは、常に粗暴な言葉で周囲の人間に毒づき、暴力を振るう。

彼は、世の中のあらゆるものが、憎くてしかなないのだ。
そして、本当は彼自身も、その原因となった暴力を嫌悪しているようにも見える。

ただ、どうしていいのかもわからない。
過去と父親と世の中を呪うしか術がないかのように、
あらゆるものに牙を剥く。

ある日、サンフンが激しく憎んでいる父親が自殺をはかる。
その時サンフンの中で何かが変わる。


誰も友達などいないサンフンが、夜中にヨナを河原に呼び出し、
彼女の膝の上に頭を載せ涙を流すシーンは、言葉ではお互いの感情を口にしなくとも、
お互いの行き場のない孤独な魂が共鳴した、胸が締め付けられるような切なさを持った、
映画でしか表現し得ないシーンだ。

オイラは、魂が揺すぶられるような本物の映画に出会えた喜びと、
これが監督デビュー作と言うヤン・イクチュンの才能に驚愕する。

全編暴力シーンが占める凄まじい映画だが、
これほど切なく孤独な魂を描いた映画は滅多に観れるものではない。

まぎれもなく傑作である。



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Posted by アイスH at 11:44 │☆☆☆☆☆レビュー