2009年11月20日

『脳内ニューヨーク』レビュー

『 脳内ニューヨーク』(原題:SYNECDOCHE,NEW YORK)
・製作年 2008(アメリカ)124分
・カテゴリー:アート系シネマ
・監督・製作・脚本 チャーリー・カウフマン
・製作 スパイク・ジョーンズ
・キャスト:フィリップ・シーモア・ホフマン、ミシェル・ウィリアムズ、サマンサ・モートン、キャスリーン・キーナー、エミリー・ワトソン
・レビュー(☆☆☆☆)

『マルコビッチの穴』『エターナル・サンシャイン』の天才脚本家チャーリー・カウフマンの初監督作品『脳内ニューヨーク』を渋谷シネマライズで観た。

 かつてスタンリー・キューブリックは『ストーリーをリアルに語るのは、まどろっこし過ぎる』と語ったと何かの本で読んだ事がある。『リアリズムだけでは、生きる事や世界を表現できない』と言う理由らしいが、この映画は正にリアリズムだけで語る事のできない人生の何かを描いた映画だと思う。

 映画というのは、言ってみれば、作り話の絵空事だ。しかし、その脚本家が考えだした作り話に力を与え観客の魂を揺さぶる映画にするには、スクリーンに映し出された”絵空事”を、現実に起きている出来事のように見せる必要がある。

その為に、本物の役者は、20kgも痩せたり、太ったりしなければならない。『レイジング・ブル』のロバート・デ・ニーロのようにface09
<だから、邦画でどんな役柄でも同じ髪型で出演するニセ役者がいること自体信じられないし、映画を舐めきっている。それを許す制作側も同じ穴の狢だ。(余談だが。。。)>

 映画のリアリズムとは、作り話の絵空事の嘘に本物の現実以上のパワーを与える要素なのだが、それを『ストーリーをリアルに語らず』『生きる事や世界を表現する』なんて離れ業をやってのけるのが、チャーリー・カウフマンの天才たる所以だ。

 ストーリーは、妻と娘に逃げられた、孤独で常に死に怯えている中年の冴えない舞台演出家の男が、演劇界の天才賞マッカーサー・フェロー賞を受賞し莫大な賞金を基に、巨大な倉庫の中にニューヨークの街を再現して、その中に生きる人々の人生を表現しようという壮大なプロジェクトを思いつくという話だが、天才カウフマンは物語の中に映画的なトリックやマジックを散りばめ、現実と非日常、あるいは現実と妄想の間を行ったり来たりして、観る者を混沌とした世界に誘う。そこは深い霧の中にいるように、何が本当に起きたことなのか判らない、現実とも夢とも違う世界だ。現実と非日常の境界線はなくなり、そこにはリアリズムだけでは表現しきれない、ぼんやりとした人生の幻影みたいなモノが見えてくる。

 人生には時として、あり得ないような出来事も現実に起こったりするものだ。事実、凡庸なオイラの人生でも、何度かそんな場面に遭遇したことがある。
 例えば、会社に出勤しようと家を出て横断歩道を渡ろうとした時、反対側の横断歩道をでかい孔雀(くじゃく)が羽を広げて横断歩道を歩いていた。朝もや漂う早朝の横断歩道。点滅する青い信号の色。美しい羽を大きく広げた孔雀がスローモーションのように歩いて行く。まるで、夢の中のような出来事だが本当に目の当たりにしたことだ。

 この映画は、観る者を選ぶ映画だが、かと言って小難しい映画でもない。根底には知的なユーモアがあり、悲観主義者の小心者の主人公が、思いもかけない出来事に翻弄されても、人生の真実をつかみ取ろうともがく姿を通して、観客も追体験できる映画だ。
 
 天才と言えば、70年代に寺山修司が、新宿とかの街角の至る所に役者を配置して演技をさせたり、ビルの部屋をいくつも貸し切って、その中で役者に前衛的な状況劇を演じさせたりしていたが、観客は全体が見えないから何をやってりるのかさっぱりわからないという、この映画の主人公の発想と同じことを既に現実にやっていた。 天才の考えることはすごい。
 あと、キューブリックも『アイズ・ワイド・シャット』で、ロンドンのスタジオにニューヨークの街を再現したのを思い出す。
 それを考えると、この映画の発想もあながち、荒唐無稽な話ではないね。


  

Posted by アイスH at 23:46Comments(0)☆☆☆☆レビュー

2009年11月14日

『こまどり姉妹がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! 』レビュー

『こまどり姉妹がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! 』
製作年 2009年(日本) 上映時間 71分
カテゴリー:ドキュメンタリー
監督:片岡英子
出演:こまどり姉妹(長内栄子・長内敏子)/渥美二郎
レビュー(☆☆☆☆)

 『こまどり姉妹』という名前は聞いたことはあるという程度の知識しかないが、テアトル新宿でモーニングショー(朝10時〜)で上映中の『こまどり姉妹がでやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! 』を観にいった。
 はたして、平日の朝にこまどり姉妹のドキュメンタリーを観に行く人がどの位いるのか興味深かったが、会場は半分以上の席が埋まっていた。
 こまどり姉妹の強烈なワンフー(ファン)でもないオイラが、なぜ早起きをしてワザワザ新宿のモーニングショーを観に行ったかというと、ある知人がオイラに言った『今の自分が如何に"温い"か知りたかったら、この映画を観ろ!』と言う一言が妙に引っかかったからだ。
 で、観たらこまどり姉妹のヘビーな半生に打ちのめされて、ぬるま湯にどっぷり浸かっている自分を猛省した。
『甘ちゃんだぜ・・・俺(;´д`)トホホ…』

 こまどり姉妹とは、昭和30年代、華やかな芸能界でトップに昇りつめた双子の演歌(?)歌手で御年71歳。
生涯現役を誓う彼女らの歌手活動のスタートは、歌が好きで歌手になったわけではなくて、生きるために歌わざるを得なかった。
 北海道に生まれた二人は、幼い頃に貧困から、一家で故郷から夜逃げして、旅芸人のように双子の姉妹が歌を歌い日銭を稼ぎながら、ある時は流しで繁華街の飲み屋を一晩中まわって歌を歌うような生活を送る。まだ、彼女らが11歳の頃にだ。
 流しといっても、100件の店を回ってやっと一回歌えるような過酷な生活で、次の朝には喉がつぶれて声がでないような状態だったという。11歳といったら、まだ、小学校の高学年だぜ(*’д’*)
 その後、一家で東京に上京して姉妹は、山谷で”流し”から始め、13歳でストリップ劇場の余興で歌を歌い( ̄○ ̄)、お座敷で三味線を覚え、やがてレコードデビューをはたし一躍人気者になるが・・・・・(ここまでが、まだ、姉妹の人生のほんのサワリ)
 その後、絶頂期にステージ上で熱狂的なファンに刺身包丁で刺され瀕死重傷を負い、カムバックするも時代の流れにより低迷し、突然訪れた妹の末期癌宣告・・・・(絶句)
 しかし、こまどり姉妹は今日も日本のどこかの健康ランドとかのステージで歌っている。

確かにオイラは甘ちゃんだが、こまどり姉妹に比べたら、みんな温いよ(∋_∈)
不況で仕事がないって、得意先100以上まわったの?失業しても、面接落ちまくっても、100回面接受けた?
HTMLやCSS覚えようともせずに、DREAMWEAVER難しいとか言ってんじゃねー(`Д´)
(ってオイラは誰に言ってるんだっけ??)
まあ、愚痴ったり、自分の不甲斐なさを嘆く前に、やれることは全部やってから言えってことだ。

 そう言えば映画の中で、北海道の小樽の近くの『銭函』っていう駅がこまどり姉妹の長い旅の出発点になるんだけど、オイラは10年以上前に、当時つき合っていた彼女と北海道旅行をして、銭函の駅近くのコンドミニアムに泊まって、小樽の市場で買って来た毛蟹をたらふく食べたのを想い出して、急に毛蟹が食べたくなって毛蟹通販で毛蟹を注文した。     
全然関係のない話だが、観光で北海道行ってもあんな何にもないマイナーな駅に降りたりしないと思うので、『おお、銭函行った事ある』と思ってしまった。
 最後に、こまどり姉妹の映画観て、『俺も方がもっとスゲー』って思えたら、その人はきっと大成功できると人だと思う。  

Posted by アイスH at 02:00☆☆☆☆レビュー

2009年11月10日

『カイジ 人生逆転ゲーム』レビュー

『カイジ 人生逆転ゲーム』
・製作年 2009年(日本) 上映時間 129分
・カテゴリー:ドラマ。コメディー。
・監督:佐藤東弥
・キャスト: 藤原竜也 天海祐希 香川照之 山本太郎 光石 研 松山ケンイチ 松尾スズキ 佐藤 慶
・レビュー(☆☆☆)

 今日は別に暇ではないが時間がポッカリと突然空いたので、何の予備知識もなく『カイジ 人生逆転ゲーム』を観た。
チケット買ってから気がついたんだけど、この映画はオイラの最も苦手とする漫画原作のテレビ局制作の映画ではないかΣ( ̄□ ̄; ) ガーン

 でも、結論から言うと思いがけず割と楽しめた(´∀`)

 まあ、こういう映画は、脚本のひねりがどうの、演出がこうの言うのも野暮ってもんだし、ストーリーの先が読めるので何も考えずに物語の流れに身を任せて楽しめばいいんだけど、『やっぱり、“沈まない太陽”を観ればよかった』とちょっと後悔した。(時間が合わなかったので断念したんだけど。。。)
 このての映画はDVDで観ても充分なんだけど、DVD化されても絶対に観ないので、まあ、いいか(^_^ゞ

 ストーリーの先が読めると言えば、先日、ダウンタウンの松本人志の映画批評本の『シネマ坊主』を図書館で借りて読んだら、”ストーリーが読めてつまらない”とか”ラストのオチが判ってダメ”とか、如何にも『ストーリーの先が読めるから、俺って鋭いじゃん』的なことを書いていて、程度の低さにびっくりしたface03
 別にストーリが先読みできたから、偉い訳でもないし、先読み出来る映画がダメってわけでもない。(中には退屈な映画もあるけど。。。)
 そういう映画を楽しめないお前が損なんだよって思いました( ̄ε ̄)(余談ですが。。。。)

 主演の藤原竜也も、香川照之も演出なのかどうかは知らないが、マンガチックでケレン味たっぷりの演技をしていたが、藤原の演技はワザとらしいだけなのに、香川の演技は見事にストーリーにハマっていて、やはり一枚上手だなと感心した。

 中盤の見せ場の鉄骨渡りのシーンは、長過ぎてちょっと退屈だったが、高所恐怖症気味のオイラは、結構ドキドキだった。(10億円貰っても無理( ≧▽≦))

 ストーリーは、自堕落な日々を送るフリーターのカイジは、友人の借金の保証人になったために多額の負債を抱えてしまい、一夜にして大金を手にできる船に乗るはめになり、人生を逆転するための命懸けの戦いに挑むことに。。。。。  

Posted by アイスH at 02:13映画レビュー