2011年06月18日

『ブラックスワン』レビュー

『ブラックスワン』
原題:Black Swan
製作国:2010年アメリカ
上映時間:108分
映倫区分:R15+
監督:ダーレン・アロノフスキー
原案:アンドレス・ハインツ
脚本:マーク・ヘイマン、アンドレス・ハインツ、ジョン・マクローリン
撮影:マシュー・リバティーク

キャスト:
ナタリー・ポートマン、バンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダー

レビュー(☆☆☆☆)

優れた芸術作品には狂気が内在する。

お子ちゃま映画や営業ロックバンド、ましてやテレビのお茶の間番組には
決して存在し得ない。

見た瞬間に、心を奪われ、魂が揺すぶられるような衝撃を受け、
身震いするばかりか、悪寒さえも感じる程の狂気が内在する。

それが本物の芸術ってもんだ。(○ ̄∀ ̄)ノ


普段はそんなものは、平和な日常に覆い隠されて、
目の当たりにする事はない。



オイラの友達で骨董品の目利きに言わせると、
ゴッホが生きていた時には何の価値もなく、
ゴッホの絵は、彼の死後、とんでもない値段で取引されているからこそ
芸術的な価値があると言って憚らない。

つまりは需要と供給によって、価値も芸術的に優れてた作品かも決まる
と言い張るので、オイラは反論して
『ゴッホが例え歴史に埋もれていたとしても芸術作品としての価値は変わらない』
『誰かが認めなくとも、本物とはそういうものだ』
と居酒屋で酔っぱらって、激論になったことがある。

しかし、誰かが観たり聞いたりしないと、芸術は成り立たないっていうのも事実だ。
(食っていけないし。。。)


親が資産家で、金の心配をしない家にでも生まれない限り、それは無理な話だ。
でも、そもそも金持ちの家に生まれたら、そんなものを作ろうとか
表現しようなんて思わないだろうな(-。-)
自分の身を削り、何かに取り憑かれたような人生を送る羽目になるから( ̄^ ̄)



映画『ブラックスワン』に主人公ニナ(ナタリー・ポートマン)は、
ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するプロダンサー。

バレエに人生を捧げている彼女に、ある日
新作「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが訪れる。

しかしニナは、邪悪で官能的な黒鳥を演じなければならず、優等生タイプの彼女には
それが高い壁となり、次第に繊細なニナは追いつめられて行く。

ニナが混乱し、追いつめる背景には、元ダンサーの母親
エリカ(バーバラ・ハーシー)の存在がある。

オイラが思うに、こういう母親のような人間は、もっとも邪悪タイプだ。


母親のエリカは、娘のニナを妊娠したことにより、自分の夢であった
ダンサーをあきらめ、そのかつての夢を娘に投影している。

彼女は、ニナがプリマ役に抜擢されたことを、当然喜び、応援し、心配をする。
しかし、それは表面的なものでしかない。
”表面的”というのは語弊があるので、”意識下”での行動と言い換えると判り安い。

母親のエリカは、自分が自覚していない無意識下では、
娘がプリマ役に挫折することを望んでいる。
なぜか?

それは、自分が実現できなかった、かつての夢を娘に投影し、娘をコントロールして
夢に向けて努力している自分の姿(行動、生活)こそが重要だからだ。
決して裕福ではない生活や、あてもないような日々こそが
彼女にとって居心地のいい場所なのだ。

それが、ある日、娘が大役を得て、急に純白の白鳥のように
大空に飛び立とうとした時、彼女の無意識が彼女自身に命令する。

娘の夢を壊せと( ( (;゚ー゚) ) )

母親エリカこそが、ニナの邪魔をするドリームキラーなのだ。
オイラが、”もっとも邪悪タイプ”と言ったのは、
エリカが自分でも自覚していないところだ。

表面的には、心配をしてニナに過干渉をし、子離れができない。
いつまでも、ニナは自分が守るべき弱い存在でしかない。
応援をしているように見えるが、『やっぱり、あなたには無理よ』と
自分が夢を託した娘の未来を閉ざそうとする。

そもそも、プロのバレーダンサーなること自体が、本当にニナが望んだ夢なのかさえも怪しい。


母親エリカは、エゴイストで、しかも邪悪だ。
こういったタイプの人間は、その辺に履いて捨てる程いる。

『サッカー選手になるなんて無理よ。いい学校に行けるように勉強しなさい』
と子供を塾に通わせる母親や、
『成功する奴なんて、ほんの一握りだよ。いい加減目を覚ませよ』
と訳知り顔で、飲み屋で説教する友人。

”そんなの無理だよ”と言うやつら全員がドリームキラー。

もし、あなたが何かをなし得たいと思っていたら
決してドリームキラーの言う事を聞いてはいけない。face15

彼らは、自分と同じように夢を諦めた仲間を欲しがっているのだから。




話を映画に戻そう。

ニナが見た夢が、実は母親の幻影であったとしても、
彼女がその夢に向かって努力してきたのは事実だ。

その夢を叶える為には、彼女の前に立ちはだかる心の壁だったり、
母親のエゴだったり、自分の弱さなどと戦い、

自分の力で夢を掴みとらなければいけない。

それだけが、今の自分を乗り越える唯一の手段だ。

一番の敵は、今の自分。
今まで、母親が望む”娘役”を演じてきたニナに、彼女に内在する狂気が囁く。

母親が作り上げた偽物の自分の殻を破り、本物の自分に生まれ変われとψ(`∀´)ψ

もはや、無垢な白鳥か、邪悪な黒鳥か、どちらが本当の自分なの判らない。
白と黒がニナの肉体の中で、激しく鬩ぎ合う。


アカデミー賞主演女優賞受賞したナタリー・ポートマンの渾身の演技と、
トレーニンングで作り上げたバレーダンサーの肉体は圧巻だ。

が、何かが足りない。

演出は、ニナの精神の混乱を表現しているが、やや仰々しく、
本物の狂気が足りないよう思える。

それは、小手先のホラー映画もどきの、ちんけな狂気などではない。

必要なものは、本物のアーティストや、パフォーマーだけに内在する狂気だ。


何かと戦っている人にお勧めの映画だ。



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Posted by アイスH at 20:40 │☆☆☆☆レビュー